人類初の月面着陸を成し遂げたアポロ11号。その次の12号も成功。さらに打ち上げられた13号は、世間の注目も低くなり始めていた。そして想定外の事故が起きる。
月に向かって飛行中、宇宙船の一部が爆発し、月着陸どころか地球に戻ってこれるかどうかもわからない危機的な状態に陥ってしまった。しかし、宇宙飛行士と地上の管制官たちの驚異的な努力により、地球生還を果たした。
映画にもなったアポロ13号。この事故は、「最も成功した失敗」と呼ばれているそうだ。テレビ番組でも何度も放送されていて、つい昨日もNHKのBSで放送されていた。この放送を見ていて、組織のあり方、働き方の理想について、あらためて多くの教訓を得ることができた。そのいくつかを書いてみる。
推測で状況を悪くするな
アポロ13号で事故の発生が明らかになり、動揺する管制室のメンバーに向かってフライトディレクターがこのように呼びかけたそうだ。
何か問題が起きたとき、競うように推測が飛び交い、混乱に拍車がかかることがある。大切なのは「事実」であって「推測」ではない。
教訓:事実でなく、推測を前提に仕事を進めていないだろうか。
現場の人間には現実がよくわかるが、管理側には見えていない
一部が爆発した宇宙船に乗っている宇宙飛行士には、事の重大さがわかっているが、警告ランプやモニター越しでしか様子をつかめない管制室では当初、「また警告ランプの誤作動か」くらいの認識しかなかったという。
教訓:現場から問題が上がってきたとき、管理側の自分はそれを軽視していないだろうか。軽視する根拠はなにか。自分の過去の経験は、軽視する根拠にはならない。
問題解決につながるアイデアがあれば、組織のどんな偉い人でも話を聴いてくれる
13号の事故の直後から、飛行士たちを無事に帰還させるためのあらゆる努力がなされたが、問題解決につながるアイデアを持っている人であれば、管制室のメンバーだけでなく設計のエンジニアであっても、その意見を聴いてくれる組織風土があったそうだ。
教訓:組織文化がフラットになっているだろうか。フラットな組織をつくろうとして、組織図だけフラットにしていないか。
意思決定者が誰かが明確である
アポロ計画では、最終的な意思決定者は、NASAの長官でもなく、大統領でもなく、管制室にいるフライトディレクターが最終的な意思決定権を持っていた。大事な意思決定を行う必要がある時、意思決定の遅れが致命的になることがある。
現場の責任者(フライトディレクター)が最終的な意思決定者となり、組織のトップは支援者として現場を支える。これが、迅速な意思決定を行うための鉄則だ。
教訓:自分の仕事の最終意思決定者が誰か知っているだろうか。その人と自分の間に信頼関係はあるだろうか。
解決策は必ずある。絶対にあきらめない
アポロ計画に携わった人々が共有していた価値観。このような価値観が根底にあるからこそ、月着陸という偉業が成し遂げられ、さらには13号の絶体絶命の危機をも乗り越えられたのだろう。
教訓:できない理由を考えることが得意になっていないだろうか。あきらめる理由をいつも探していないか。
パニックになっても何も解決しない
「あきらめない」という価値観と同様である。
教訓:あれこれ大声で指摘するだけに終始していないだろうか。すぐに「責任」という言葉を持ちだしていないか。
全体に興味を持ち、自分の担当以外のことも勉強している
アポロ13号の事故で、電源不足の解決策をまかされたのは、26歳の担当官であったそうだ。彼は、自分の担当以外の分野も広く興味をもって勉強していて、フライトディレクターの信頼も厚かったそうだ。
深く、かつ広く知ろうとする好奇心が、自分の得意領域を豊かにする。深いだけでは視野が狭まり、得意領域が応用できなくなるということだろう。
教訓:専門バカになっていないだろうか。自分の仕事の範囲を、自分で狭めようとしていないか。
よし任せた。やってみろ
上記26歳の担当官に、フライトディレクターがかけた言葉。細かい指示はせず若手に仕事を任せると、任された若手の「やる気」に火がつく。
教訓:任せたと言いながら、あれこれ細かい指示を出していないだろうか。任せられる若手を、日頃から育てているか。
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上記エピソードは、アポロ計画という特別なプロジェクトでの話であるが、自らの働き方や組織に置き換えても、決して大げさすぎるという話ではないと感じる。