2009年7月20日月曜日

Less but Better

ドイツの家電メーカーであるブラウンのデザイナーを努めていた、ディーター・ラムスの作品展を、府中市美術館に見に行ってきた。最終日ということもあって、美術館は盛況だった。

展示されていたものは、1950年代以降のブラウンの家電製品で、そのどれもが「今欲しい」と思わせるものばかりだった。私が高校生の頃、初めて買ったシェーバーが展示してあったりして、なんともなつかしい気分にもなった。

それらのデザインは、一言で言うと、

クリーンである

ということかもしれない。
単にシンプルというだけでなく、

機能をデザインしている

という意志が伝わってくる。

川崎和男さんも常々おっしゃっていることだが、デザインと装飾の違いをよくわきまえていて、気持ちがいい。

ラムスの時代は、家電製品はアナログ技術の時代だった。アナログ技術には、「必然の形態」というものがある。

「ラジオを聴く機械は、こうでなければならない」
「レコードを聴く機械は、こうでなければならない」

という必然性が。

その必然性をしっかり受け止め、クリーンなデザインに落とし込んでいるのが、当時のブラウンの製品かもしれない。

デジタル時代の今、デザインの自由度は大きく増している。アナログ時代にあった機能上の形の必然性が今はなく、自由にデザインできる幅が広がった。その自由度を、うまく活かせるかどうか、それが今、問われているのかもしれない。

展示の中に、ディーター・ラムスの「良いデザインの10箇条」が書かれていた。

  1. 良いデザインとは、革新である
  2. 良いデザインとは、実用をもたらす
  3. 良いデザインとは、美的である
  4. 良いデザインとは、理解をもたらす
  5. 良いデザインとは、謙虚である
  6. 良いデザインとは、誠実である
  7. 良いデザインとは、長命である
  8. 良いデザインとは、最終的にディテールへと帰結する
  9. 良いデザインとは、環境への配慮とともにある
  10. 良いデザインとは、可能なかぎりデザインを抑制する

これらの10箇条は、

Less but Better

という言葉に、集約されていたように思う。

ドイツの建築家、ミース・ファン・デル・ローエは、

Less is more

という格言を残したが、moreをbetterと言い換えたラムスの言葉は、家電メーカーであるブラウン、すなわち、ビジネス上の責任を担っている企業のデザインを率いていたからこその、名言であると思う。